西岡常一、知る人ぞ知る伝説の宮大工です。世界最古の建築物として有名な法隆寺の大修復が行われた際には棟梁を務めました。

さすがにそんな人物なのでエピソードには事欠きません。有名なものの1つが、適材適所に関する話です。

簡単にいうと「山の北側に生えていた木は建物の北側に、山の南側に生えていた木は建物の南側に使え」というもの。若干オカルトっぽい気もしますが、千数百年前に建立された法隆寺を修復のために解体したときには、その理屈で建てられていたことを知っての発言なので重みが違います。と同時に当時の人たちがそういう理屈を何らかの方法で知っていたこと自体驚嘆すべきですが。

南側に生えていた木というのは、陽当たりが良いので樹高は高く、幹も太くなりやすいです。生育条件がいいので当然ですね。

一方、北側の木というのはその反対。樹高も低く、幹も細くなりやすい。ではな北側の木をそれでも使うのでしょうか?

短所は最大の長所なのです。幹が細い分、年輪の幅は狭いので、南側の木よりも堅いという長所があります。また南側の木は陽当たりの良さがアダになって、幹が沢山出来て大きくなり、結果として太く重くなるため、曲がりやすくかつ建材かしたときには節目の多いものとなってしまいます。裏を返せば、北側の木は曲がりにくく節目の少ない建材となるわけです。

節目の存在は、見た目を損ねるだけでなく、木材の強度にもマイナスの影響を与えます。こうしたことを考え合わせると、先ほどの考え方を裏付ける仮説を立てることが出来ます。雪が降った時のことを考えてみてください。陽当たりがよく溶けやすい南側と陽当たりが悪く溶けにくい北側、の屋根の重みに雪の荷重が加わった北側の箇所を支える材木として、南側の木、北側の木、どちらを選ぶのが理にかなっているかを。

木の個性を生かす考え方は、人間の世界でも十分通用しそうですね。